山深い森林
       森の中を、2匹の猟犬と3人のハンターが走っている。
       何か嗅ぎつけたのか、犬はある茂みの前で唸りはじめた。
       奥には男が隠れていた。銃によると思われる傷を負っている。
       犬は茂みを飛び越え、その男に食らいつく。
     男「助けてくれぇーっ!やめろーっ!」
       だが、ハンターたちは助けようともせずそれを見ている。その男が、獲物なのだ。
       その連中の前に、彼らよりずっと若い、眼鏡を掛けた長身の男が現れた。鷹取広史である。
    頼経「いやぁ、お見事」
    中沢「けっ、まったく、近頃の若い奴は根性がない。もっと手応えのある獲物はいないの
       のかね、広史くん」
    近藤「私はメス。メスを撃ちたいなぁ」
       広史振り返り、中沢に銃を差し出す。
    広史「先生、トドメを」
    中沢「あ…いや、いや」
    広史「では」
       何の躊躇いもなく、男に銃口を向ける。
     男「…よっよせっ、やめろぉーっ!」
       広い森の中に、銃声が響き渡った。


Mission 10 Bruder ―昏き絆b


大きな屋敷の庭        セピア色の映像        大きな屋敷の前を、幼い少年が走っていく。        その向こうでは、学生服を来て眼鏡を掛けた兄らしき人物が手を上げている。     兄A「衛!」        その方向へ走っていたが、途中で躓いた。     少年「あっ!」        学生服の男が転んでいる少年に駆け寄る。        しかし少年は泣く様子もなく、笑って立ち上がり、彼の横を擦り抜けると、池の方へと        走って行った。        池の辺では、これも兄らしき男が、蝶の羽根を千切っている。        少年が駆け寄ると振り向いた。     兄B「衛…」        目が不気味に光る。     兄B「衛…」        立ち上がる。     兄B「衛ーっ!」        そして化け物(前回の雅史)と化して、少年に襲いかかろうとした。        怯える少年。     少年「あぁーっっ!」
オミの部屋     オミ「うわぁぁーっ!」        深夜ベッドの上で飛び起きる。        少しの間肩で息をしていたが、ベッドを降りて、机の上の焼け焦げた写真を手に取った。        雅史の研究室にあった家族写真だ。        焼け残った部分に、さっきの夢で見た2人の兄と、母親に抱かれた少年が写っている。                パソコンのスイッチを入れ、鷹取家のことを調べはじめる。     オミ「鷹取雅史。衆議院議員、鷹取玲司の次男。兄、広史は現在父玲司の秘書。弟、衛…衛…?        うっ…」        頭痛に顔を覆うオミ。     オミ「弟、衛の消息は、現在…不明…」
子猫の住む家店内        椅子に腰掛けてバラの花束を作っているオミ。ふいに欠伸が出る。        そこへ寄ってくるヨージ。    ヨージ「よっ」        見上げるオミ。    ヨージ「どうしたー?美少年」     オミ「あ?」        後ろからオミの両肩に手をかけて、小声で聞いてくる。    ヨージ「分かってるぜー。一晩中インターネットだろー」     オミ「あぁ?」        ヨージ、オミの頬を指でつつきながら。    ヨージ「ははっ、隠すなって。見かけによらずスケベだなぁ。ホントは18歳未満は見ちゃいけな        いんだぞぉ、ああいう映像は」     オミ「一体何のことだよっ」        店のドアが開いて、会話が止まった。        ドアの前に立った凰華が、くっついてる2人を見て咳払いをする。        オミの肩に乗ってる手に気付き、慌てて離れ、笑ってごまかす2人。        ヨージが歩み寄って挨拶をする。    ヨージ「いらっしゃい、凰華ちゃん」        凰華はヨージを無視して、まっすぐオミの座っているテーブルの前に立った。     凰華「私今日は、来週の確認に来ましたの」     オミ「確認?」        来週、政財界のVIPや外国の大使が集まる、大々的なパーティーがありますの。オミくん        には凰華をエスコートしていただきます。よろしいですね?」     オミ「いやぁ、僕そういうのはちょっと…」     凰華「私と一緒じゃヤなのっ?」        身を乗り出して、オミに詰め寄る凰華。        オミは座ってる椅子が斜めになる位体を引いて逃げる。     オミ「い、いや、仕事もあるし…」     凰華「分かりました。この私が深々と頭を下げているのに、お断りになるのねっ」        後ろでケンとアヤがあきれて見ている。     ケン「頭なんか下げてたかぁ?」     アヤ「さぁ」     凰華「もういいわ。せっかく一般庶民が死ぬまで入れない世界を見せてあげようと思ったのに」        あきらめて店を出ていく凰華。    ヨージ「おい、行っちゃったぜ。いいのかよ」     オミ「別にっ」    ヨージ「おいー、エッチサーフィンもいいけど、生身の女の子とも付き合っといた方がいいぞ」     オミ「何言ってんだよっ」        微笑むアヤ。ふと入口を見ると、マンクスが立っていた。
子猫の住む家地下        指令のビデオを見ている5人。    ペルシャ「ヴァイスの諸君、新たなミッションの発令だ。この日本で、人間を獲物にしたハンティング        が秘密に行われている。罪なき者が次々とその犠牲となっている」        画面には、死体の写真が映し出されている。   ペルシャ「首謀者は、鷹取広史。」        はっとするオミ。   ペルシャ「以下、元首相中沢兼一。幹事長近藤博、山中警察署長頼経健太。        闇の白き狩人達よ、黒き獣の明日を狩れ」        ビデオが終わる。        ぼんやり何か考えているオミ。    ヨージ「おいおい、また鷹取かよ」     ケン「この間の奴と関係あるのか?」   マンクス「あなた達に関係ないわ」     ケン「なにっ」   マンクス「ターゲットは黒き獣達。それだけでいいハズ。文句があるなら降りてもらってもいいのよ」     ケン「別にそんな…」        2人の間に入ってくるアヤ。     アヤ「オレはやる。手掛かりはあるのか?」   マンクス「被害者の多くは、六本木付近で行方不明になってるわ。どこかのクラブで物色されたのね」    ヨージ「じゃ、そこらに行っておとりになれば、ターゲットに接触できるってワケか」     アヤ「分かった。その役はオレが…」     オミ「僕が行くよ」        ソファに座ったまま、何か決意した表情。        4人の視線が一瞬にしてオミに集まる。     ケン「オミ」     アヤ「お前じゃ無理だっ」     オミ「僕がやる。僕にやらせて、アヤくん」        立ち上がるオミ。        目を合わせる2人。
六本木の街        連れの女性と3人で歩いている凰華、路地の向こうにオミを見つける。        いつもより派手な服装(70年代初頭って感じ)で、地下のクラブに入っていくオミ。     凰華「まっ」        くすっと笑って、連れを置いたままそっちへ駆け出す。    連れA「凰華様!」    連れB「どちらへっ?」
クラブ(店内)        クラブというよりは、70年代後期のダンスホールとか、そういう感じの店内。        若い男女に混じって、スーツを着たごつい男がいる。        オミが店内を歩いていると、女が声を掛けてきた。           女A「はぁーい」     女B「一人?」     オミ「僕はいつだって一人さ」     女B「じゃあ、今夜は3人でどう?」        そのとき後ろの方から、何やらモメている声がした。     凰華「イヤ!放しなさいっ!」        オミが振り返ると、そこにはガラの悪い男達にからまれている凰華がいた。    不良A「どうせ男あさりに来たんだろ、来いよ」        男が凰華の手を強く引っ張った。     凰華「やぁっ」     オミ「失礼」        オミが現れて、凰華を男から引き戻す。     凰華「オミくん!」     オミ「困ってるじゃないか」    不良B「関係ねぇだろ、引っ込んでろよ」    不良A「てめぇの彼女じゃあるめぇしよぉ」    不良C「へっ、ちげーねーや」     凰華「彼女です」        少し驚いて赤くなるオミ。    不良B「ちっ、男付きか。行こうぜ」  不良A、C「ああ」        退散していく男達。その後ろ姿を見ながら、凰華が呟く。     凰華「なーんだ、喧嘩になると思ったのに」     オミ「冗談じゃないよ!なんでこんなとこにいるんだ!」     凰華「遊びに来たのよ。いけない?」     オミ「ここは君が来る所じゃない」     凰華「あら、私ダンスは得意なのよ。三つの時から日本舞踊習ってるんだから」        店内が暗転し照明が光る。同時に音楽が流れ出す。        (曲「Oh Mercy」)     凰華「踊ろう、オミくん」        フロアの中央にオミの手を引いていく凰華。     オミ「いや、僕は…」        しばらく一人ボーッとしているが、そのうちつられて踊りだす。        視界の端で、さっきの女達がスーツの男に案内されて、どこかに去るのが見えた。        そんなことはおかまいなく、凰華は勝手にオミの手を取ってターンする。        オミの視線が凰華に戻る。その後しばらくダンスシーン。        曲が止まり、店内が明るくなると、他のお客が2人を囲むようにして拍手を送っている。        ふいに凰華が歩み寄り、オミの顔に手を伸ばす。        そのまま目を閉じて唇を寄せた…が、オミはハッとして、首を横に振った。
クラブ(出入り口の階段)     凰華「やだ痛い、何するのぉ」        地下から凰華の背中を押して、上がってくるオミ。     オミ「お嬢様はもう帰る時間だよっ」        オミが突き放すが、懲りずに寄ってくる凰華。     凰華「オミくんが送ってくれるなら帰る」     オミ「だっ、ダメだよっ!」        半ば突き飛ばすようにして、凰華を押し出す。        よろける凰華。     凰華「あぁんっ」     オミ「真っ直ぐ帰るんだ。いいね!」        背を向けて店内に戻っていくオミ。その後ろ姿を見ながら不貞腐れる凰華。     凰華「んっ、もうっ!」
クラブ(店内)        ようやく一人になり、カウンターでドリンクを飲んでいるオミ。     オミ「あーあ、退屈」        わざとらしく呟くと、さっき女達を連れていったスーツの男が、声を掛けてきた。  スーツの男「お連れ様は?」     オミ「連れ?あんなの関係ないよ、僕はいつだって一人さ。何か、面白い遊びないかなぁ」  スーツの男「それでは、こちらへどうぞ」        イスを降りて男について行くオミ。        店の奥に入って行く2人を、いつの間に戻ってきたのか、凰華が見ていた。        こっそり後をつける。                男が奥の倉庫らしきドアを開け、オミを促す。     オミ「なんだい?カジノでもあるのか?」        中にはさっきの女達が口を塞がれ、縛り上げられていた。        そしてオミが男の方を見ようとした瞬間、顔面にスプレーが噴射される。        男がニヤリと笑うのを見ながら、意識が遠のいていくのを感じた。
トラックの荷台        目を覚ますオミ。縄で縛られたまま起き上がる。     オミ「ここは…」        高速を走るトラック。富士方面に向かっている。     凰華「あら、おはようオミくん」        同じく縛られて横になったままで、凰華が声をかけた。     オミ「な、なんで君が…」        周りを見回すと他に、さっきの女が2人、ガラの悪い3人、男1人が縛られてうずくまっていた。        凰華は起き上がってオミの隣に並び、問い掛ける。     凰華「これは一体…」        そこへスーツの男が2人、入ってくる。  スーツの男「静かにしろ!お前らはみんなハンティングの獲物だ。森に着いたら放してやる。生き延びた        かったら、せいぜい走ることだな」

CM  (アイキャッチなし)

車内
      明け方の高速道路。カーナビに点滅する、発信機の行き先を追う3人。       左の運転席にアヤ、助手席にケン、後ろにヨージ。    ケン「オミのやつ、何だってこんな危険な役をやりたがったんだ?」       アヤ、そのときのオミの表情を思い出す。    アヤ[あの目…何かある]
トラックの荷台       不安そうに寄り添う凰華の隣で、考え込むオミ。    オミ[鷹取広史、雅史、衛。何故なんだ…何故こんなに気になるんだ…]
山中の別荘       中沢、ひげ、近藤は猟犬を囲んで談笑している。その後ろの方で広史が本を読んでいる。       ひげ、犬のの頭を撫でながら。    頼経「おう、よーし、よーし。国民もこのくらい忠実だといいんですがねぇ」    中沢「ふん。訓練次第だよ。広史くんの親父殿が総理大臣になれば、フヌケた日本人も少しはマシに       なるだろう。なぁ」       広史を振り返る。広史立ち上がり、嬉しそうに答える。    広史「はっ。今度の総裁選では、是非とも父を」    近藤「なぁーに、大丈夫。中沢さんのひと声で、票はまとまりますよ」    中沢「ん。むしろ問題は指名選挙だな。近藤さんとこの党は連立政権を離脱するそうじゃないか」    近藤「はっはっは。口先だけですよ、私がそんなことさせやしません。       その代わり広史くんこれからも…」       3人の視線が広史に集まる。    広史「おまかせください」       テーブルの上のFAXが受信し、凰華と女2人の写真が出力される。       それを手に取る広史。    広史「本日は先生方が撃ちたがっていたメスどもを、多数用意しております」    頼経「そりゃあ楽しみだ」       楽しそうに笑う3人。       広史、内ポケットから携帯を取り出す。       電話を切り、3人に報告した。    広史「お待たせしました。獲物が到着したようです」
森の中       縄を解かれ、外に出されている獲物達。       2人の男が銃を向けている。 スーツの男「さぁ、走れ」       突然銃を乱射しはじめる。撃つためではなく、獲物を散らすためだ。       散っていく人々、オミは怯える凰華の手を引いて走り出す。    オミ「こっちだ!」 スーツの男「走れ走れっ」         猟犬が森の中を走る。ハンターが後に続く。       走り続けるオミ。ふと凰華が躓いてしまう。    凰華「あっ!」       慌てて戻るオミ。    オミ「早く!」    凰華「イヤ。もう走れない」    オミ「置いてくよっ」    凰華「イヤ」    オミ「もう!勝手にしろよっ」       そう言って離れたものの、気になって振り返る。凰華はまだ座り込んだままだ。       溜息をつきながら戻ってくるオミ。    オミ「ほらぁ」       起こしてやると、今度は両手を出した。    凰華「おんぶして」    オミ「冗談じゃない」       オミは強引に手を引いて走り出す。    凰華「そんな、早く走らないでよぉ」       まったく聞いていないオミ。    オミ[鷹取広史!何処にいるんだっ!]
森を見下ろす崖の上       銃声が響く森林を、上から見ているアヤ、ヨージ、ケン。       ケンが双眼鏡を下ろして言う。    ケン「狩りが始まったようだぜ」   ヨージ「行くか」    アヤ「慌てるな。オミの合図を待て」    ケン「放っとくと死人が出るぞ」    アヤ「オレたちは人助けに来たわけじゃない」       顔を見合わせるヨージとケン。
森の中       獲物を見つけ、飛びつく犬達。       それを見て逃げ出す人々とは逆に、凰華が駆け出す。    オミ「おい!」       木の枝で男に食いついている犬をつつく凰華。    凰華「こらっ、あっちへお行き。こらっ」       男を放した犬が、今度は凰華に襲いかかる。肩を噛まれ、傷を負う。       さらに襲いかかりそうになった瞬間、オミのダーツが犬に命中した。逃げていく猟犬。    オミ「バカだなっ、なんて無茶するんだ!」       スカートをはたきながら、平然と立ち上がる凰華。    凰華「だって、放っとけないじゃない?」    オミ「君って…」       言いかけた時、銃声が聞こえた。       見回すと、向こうの方でハンターが2人を狙っている。       オミは凰華を抱きかかえた。    オミ「逃げるぞ」
洞窟       川沿いなのか、近くに滝落ちている。       オミは洞窟の中に入り、凰華を下ろした。    凰華「痛いっ!」       血の滲む肩を押さえる。    凰華「さっき、噛まれたんだわ」       オミは何も言わず、彼女のブラウスのボタンを外す。    凰華「なっ、何?」       傷口が露になる。赤くなる凰華。    オミ「いいからじっとしてて」       コートから白い布を出し傷口に当てる。    凰華「痛っ!…痛いわ、オミくん」    オミ「生きている証拠さ」    凰華「きっと、傷跡が残るわ。オミくん、犬に噛まれた女なんて嫌いでしょ?」       オミ、首に巻いていたスカーフを外し、肩に巻いてやる。    オミ「このくらい3日で治るよ。来週のパーティーには、肩を出したドレスだって着れるさ」    凰華「来週…?一緒に、来てくれるの?」       珍しく控えめな凰華。    オミ「ああ。だから元気を出すんだ」    凰華「うん!」       オミ、タブレットから錠剤を取りだし、凰華に差し出す。    オミ「さぁ、これを飲んで。痛み止めだよ」       くすっと笑う凰華。    凰華「く・ち・う・つ・しっ」       薬を握り締めふるふると堪えた後、錠剤をぶちまけるオミ。    オミ「ばかぁっ!!」       それでも目を閉じている凰華にタブレットケースを向け、何か(多分、針)撃った。       彼女は倒れて、そのまま眠りにつく。    オミ「ごめんよ」       オミは発信機を取り出し、スイッチを押した。    オミ「ヴァイス、ミッション発動!」
森の中       ヒゲが猟銃を構えていると、草を踏む足音が聞こえた。       音のする方へ踏み出すと、ワイヤーに足を取られ、首にかかった。    頼経「うわぁぁ…っ」       そのまま木の枝に引き上げられ、同時にヨージが降りてくる。       持っていた銃が草の上に、落ちた。              ヨージが立ち上がると、後ろから声がした。    オミ「ヨージくん!」       振り返ると、オミが駆け寄って来た。    オミ「アヤくんたちは?」   ヨージ「計画通りターゲットを追ってる。オミの合図が遅いんで、ヒヤヒヤしたぜ」       オミそれには答えず、少し考えてからヨージを見上げた。    オミ「この先の洞窟に、女の人をかくまってるんだ」   ヨージ「え?」    オミ「薬で眠らせてある。車で東京まで連れて帰ってほしいんだ」   ヨージ「しかし…」    オミ「キレイな人なんだ」       フッと笑ってサングラスを直すヨージ。   ヨージ「分かった」
同じく森の中       上からのアングル。       追われている女達。    女A「助けてーっ!」    女B「誰かぁっ!」    女A「イヤぁーっ」       少し後ろから、近藤がはぁはぁ息を切らせて追ってくる。       銃を持ったまま、立ち止まって呼吸を整えていると、脇の茂みからケンが飛び出して来た。    近藤「おぉっ」       近藤の正面から、バグナグが振り下ろされる。    近藤「うわぁぁーっ!」
滝の見える岩場       近藤の悲鳴に、振り返る山中。怯えながら、あちこちに銃を向け、きょろきょろしている。       銃を構え、ゆっくりと歩きだす。       何か足元にあるのに気付き、見ると、犬が口を開けたままで横たわっていた。    山中「…これは」       その直後、崖の上からアヤが刀を振りかざして飛び降りて来る。    山中「うあぁぁっ!」       倒れた山中は川に落ち、仰向けのまま流されていった。       それを見ているアヤ。      広史「あ…っ」       崖の上からそれを見ていた広史が、慌てて引き返す。
別荘内       入口のドアが開き、広史が入って来る。彼は慌てて後ろ手にドアを閉めた。       肩で息をしながら入口近くのイスに座り、気を落ち着けようと、テーブルの上のシガレット       ケースから葉巻を取り出した。       火を点けて、ようやく息をついたそのとき、室内に大きな声が響いた。    オミ「鷹取広史だな」       2階から飛び降りてくるオミ。広史が驚いて立ち上がる。    広史「だっ、誰だ!」       オミがボーガンを向ける。    オミ「銃を捨てろ」       広史、持っていた銃をテーブルに置いた。    オミ「質問はこちらがする。お前には弟が2人いるな」    広史「弟?」    オミ「1人は鷹取雅史。光輪の社長だった男だ」    広史「まさか、お前らが!」    オミ「もう1人、鷹取衛という弟がいるはずだ!そいつは今、何処にいる!」       ハッとする広史。表情が変わり、手が震えだす。    オミ「どうした!早く答えろ!」    広史「衛…」       手のひらをぎゅっと握って、目を伏せる広史。       急に顔を上げると、オミに視線を合わせた。一瞬あせるオミ。    広史「…お前、衛…衛じゃないか!」    オミ「あっ…」       歩み寄る広史。    広史「オレだよ、お前の兄さんだよ!」       我に返り、近づく広史に慌ててボーガンを構えるオミ。    広史「分からないのか?よく一緒に遊んだじゃないか」       オミの脳裏に、夢とも現実ともつかないセピア色の映像が蘇る。    オミ「そんな…僕が…」       腕の力が抜け、構えていたボーガンが、ゆっくりと床を向く。    広史「お前、生きていたんだな!留学先から帰って来たら、お前はもういなかった。父さんは『あい       つは死んだ』と、それしか言ってくれない!」       動揺するオミの肩を掴む広史。    広史「後で“誘拐され、殺されたらしい”と知ったけど、オレは…」       涙ぐむ広史。    広史「オレは、どこかでお前が生きていたらと…ずっと…」       涙を流し、オミを抱きしめる広史。    広史「衛、よく生きていた!生きていてくれた!」       オミの手からボーガンが落ちる。    オミ「にい…さん…」    広史「もう何処にも行くな!衛。兄弟力を合わせて生きていこう、2人でお父さんの理想を実現する       んだ!」    オミ「おと…う…さん…」       オミの目からも涙が溢れる。    オミ「お父さん…」       強く頷く広史。       そのとき、勢いよくドアが開き、アヤとケンが入って来る。    ケン「オミ、大丈夫か!」             オミ咄嗟に広史を突き放す。    オミ「逃げてぇっ!」       一瞬状況がつかめない、アヤとケン。    広史「衛!」       オミ、テーブルの上の銃を取り、2人に向ける。    オミ「早く!」    アヤ「オミ、どういうことだ!」       何も言わず泣きながら、ただただ首を横に振るオミ。       ゆっくり後退する広史。    広史「衛、また会えるよな」       走り出す広史    広史「きっとだぞ!」    ケン「ヤローっ」       追いかけようとするケンに、オミが銃口を向ける。    ケン「オミ」       しゃくりあげるオミ。自然と銃が降りる。    オミ「僕の…僕の、兄さん…なんだ…」       驚くケン、無表情のアヤ。       オミは崩れ落ち、床に伏せたまま、声をあげて泣き続けた。       夕暮れの、静かな森の中に、オミの泣き声だけが響き渡っていた。
ヨージの車       まだ薬が効いているらしく、助手席で眠っている凰華。    凰華「オミくん…」       それを横目で見ながら、舌打するヨージ。   ヨージ「ちっ、オミのヤロー」       車はそろそろ東京に着こうとしていた。